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序章 ある雨の日の出来事

ある雨の日に…

その日、朝の時点での天気予報は、曇りのち雨、日中の降水確率が80%であると告げていた。このところの1週間、いつもの天気予報が高い確率で外れていたので、出かける前に疑わしい旨のセリフをひとりごちたあと、結局、ワンタッチで開閉する折り畳み傘を持ち、雨の日でも歩きやすいウォーキングシューズを履いて、彼女は家を出た。地下鉄に乗り、五つ目の駅で座席が空いたので座り、少しうたた寝をして十二番目の駅で降りた。エレベーターが混んでいたので、仕方なく階段を選択し、手すりにつかまりながらゆっくりと上った。途中、自動改札をいつもよりスムーズに抜けることができたので、安堵とともにほんの少し嬉しい気持ちになった。そのまま駅をから連結されているショッピングビルへと向かい、玩具売場を探した。案内係の女性に場所を尋ね、五分後に探し当て、昨晩電話でねだられたオモチャを買い、ようやく外に出てみると、天気予報がめずらしく的中したようで、すっかり雨模様であった。

彼女は今年67歳、夫を3年前に亡くし、長年住み慣れた家とその町を離れるのが嫌なことと、気がねのいらぬ生活がしたいという理由でひとり暮しをしている。今日は、息子夫婦のもとで一泊する予定だ。一週間程前に電話で招待され、それでは久しぶりに孫の顏でも見に行こうかしらということになったのだ。

この日、彼女の人生が変わってしまった。

いつもなら、ショッピングビルから息子夫婦の住むマンションまで、彼女が歩くと15分だ。しかし、この雨の中ではさらに5分以上かかると彼女は見積もった。昼食を一緒にということになっていたが、ちょっと遅れそうだ。途中で電話をかけようかと思ったが、雨の鬱陶しさで面倒になり、横着ではあるが、このまま行ってしまおうと、彼女は意を決して歩き出した。 次のページへ




2004.02.11

鈴木じゅうじん [文]
Written by Juzine Suzuki

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