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序章 ある雨の日の出来事

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滑り転倒事故の原因は?

その正体は摩擦である。
世の中には、摩擦が大きくなると事態が悪化するという例は枚挙に暇がない。しかし、彼女のように摩擦が低下した場合も災難は起るものだ。今回の場合は床の摩擦が低下したためである。そのメカニズムは、ハイドロプレーニング現象と呼ばれるものである。一般的に、ハイドロプレーニングは雨天での自動車走行時によく起る現象として有名だ。要するに、自動車が濡れた路面を高速走行した時にタイヤが浮き上がり、タイヤと路面との摩擦抵抗が失われて水上スキーのような状態になる現象のことである。この場合、ハンドルやブレ−キなどの制御ができなくなり、結果として交通事故を引き起こす可能性が高くなり非常に危険だ。

このハイドロプレーニング現象は歩行時にも起る。
それは、雨天時など、歩行時に靴底と床面との間に水が介在することで、その水が潤滑剤のような働きをするためだ。
さらにつけ加えれば、「老化は脚から」という言葉通り、筋力低下は上半身よりも下半身の方が早く、50歳代から10年ごとに筋繊維がおよそ1割ずつ減少していく。則ち、歩行について言えば、加齢に従って、歩幅が小さくなり、上げる足の高さが低くなり、踏み込みの力も弱くなり、バランス感覚も衰えてくる。また、雨天時に足元を意識しながら歩くと、それだけでストレスになるばかりではなく、関節や筋肉に余計な負荷がかかり疲労度が高くなる。これらの要素が複雑に絡み合って、ハイドロプレーニングを起こしやすくしているといえるのである。

そして、彼女は滑って転んでしまったのだ。 次のページへ




2004.02.21

鈴木じゅうじん [文]
Written by Juzine Suzuki

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